楠本内科医院(後編)

院長 楠本 拓生先生

循環器科
内科
透析

高まる在宅医療ニーズに応えるための訪問診療の体制づくり。ITが推進力になった

外来患者数/日 平均80~100人

スタッフ数 27名

導入製品

  • 電子カルテ:エムスリーデジカル「エムスリーデジカル」
  • 電子カルテ入力支援:kanata「kanaVo」
  • 訪問診療スケジュール管理:クロスログ「CrossLog」
  • 自動精算機:POSCO(ポスコ)「レセPOS」
  • 後払い決済:エムスリーデジカル「デジスマ診療」
  • PACS:コニカミノルタ「Unitea α」
  • 予約システム:EPARK「EPARK」
  • 着信ポップアップ:シンカ「カイクラ」
  • 電話自動応答:レイヤード「Iver」
  • 注文業務支援:タッグライン「タグサポ」

課題

  • 高齢患者さんを中心に訪問診療のニーズが高かった
  • 各家庭の訪問スケジュール管理が難しく効率化できなかった
  • 多職種のスタッフが関わるためにも情報共有しやすい方法を模索していた

効果

  • ORCAとの連携による作業効率アップを第一に考えて電子カルテや精算機を選定し、安定的な医院経営ができるようになった
  • 連携ツールの導入により医療・介護にかかわる多数のスタッフ間で患者さんの情報がリアルタイムに共有できるようになった
  • 20名前後だった在宅医療の患者数は年々増加し、100名まで対応できるようになった

在宅医療にも積極的に取り組まれていますが、始めたのはいつからでしょうか。

楠本院長:私が父から承継した2015年、その直後からです。大病院での勤務から、小さい規模ながら院長になって、もっと自分のやりたい医療を提供するイメージを持っていましたが、実態は違いましたね。来院された患者さんの状態が悪いとこちらの手には負えないから病院に送ったり、救急搬送されたりというケースが多かったです。そこで在宅での暮らしをサポートする、つまり定期的に診察してより深く患者さんと関わることで急変前に手を打ちたいと考えました。

ただ当時は在宅医療に慣れたスタッフも当然いませんし、看取りやがん患者さんを診た経験もなかったので、手探りでした。それでも在宅医療の経験を重ねるうちに、在宅専門のスタッフが増え、訪問看護ステーションとの連携を強化し、気づいた頃には終末期まですべて対応できるようになりました。

初年度には20名だった在宅医療の患者さんも年々増えていますね。

楠本院長:今は約100名の患者さんの自宅におうかがいしていますが、高齢者人口が増えているわけですからまだまだニーズは増えていくと思います。患者さんの数が増えていくにつれて大変だったのが、訪問のスケジュール管理でしたね。今も使っているCrossLogができる前は、専門のツールはなかったはずです。私たちもExcelやYahoo!カレンダーのような一般的なツールでやりくりしていましたが、手作業が多くて困っていました。

CrossLogとの出会いはそれだけ大きかったのですね。

楠本院長:非常に大きかったです。CrossLogのベータ版ができたくらいのタイミングでたまたま見つけて「すぐ試させてください」と連絡してトライアルを開始しました。在宅支援部の看護師長に依頼して、患者さんの情報をすぐに入力したら一気にいろんな課題が解決したときの感動は今も覚えています。

具体的にはどのような変化がありましたか。

楠本院長:それまで手動で組んでいた訪問のルートが自動的に組まれること、カレンダーのツールと患者さんの情報が入ったツールとを行ったり来たりする必要がなくなったこと、医療スタッフ同士の情報共有が楽になったこと、本当に変わりました。

電車で1時間半かけて通勤している在宅医療担当の医師は、車内で1日のスケジュールはもちろん、連携しているカルテ情報と「メディカルケアステーション」に医療介護スタッフが投稿している内容に目を通して訪問する患者さんの情報と訪問ルートもチェックしています。医院に到着する頃には、すでに1日の流れが頭の中にでき上がっていると言っていましたがから、かなり業務効率が上がっていますね。

「メディカルケアステーション」は多職種で使用する連携ソフトのことですね。

楠本院長:日常では、頭文字をとってMCSと呼んでいます。訪問後に各職種のスタッフが、患者さんの様子をSNSのように投稿することで、情報を共有しています。これのおかげで、提携している訪問看護ステーションのスタッフが訪問した際の報告もほぼリアルタイムで共有できます。医院側のレスポンスも早いので「一緒に取り組みたい」と思ってもらえているようです。

当院の用意するコミュニティ内に、訪問看護ステーションの代表者を招待し、さらに先方のスタッフが入れば患者さんの情報を全員で共有できます。

連携する訪問看護ステーションが増えた結果、当院の看護師が直接訪問しなくても外部のマンパワーをうまく使えるようになり、より多くの患者さんに関われるようになりました。

また訪問看護ステーションで働いていた看護師が当院に転職してきたケースもあります。当初は、不慣れなスタッフが多かったのに対して、経験者が加わったことで随分と助かりました。

リアルタイムで情報共有されていると、患者さんにとってもプラスですね。

楠本院長:最近は、もう一歩先の取り組みとして専門医同士の連携として、他科の先生に加わってもらってアドバイスをもらうことも試みています。私の専門は腎臓ですが、血糖コントロールが悪い患者さんがいれば、知り合いの糖尿病専門の先生にも意見を聞くというものです。患者さんにとってはさまざまな専門医レベルの治療が、1つのグループの中で受けられるのでメリットが大きいはずです。

また、入院先の病院の医師と病診連携を取って、退院後には入院中の情報を共有してもらったり、再入院が必要そうになれば先に情報を伝えておくことでベッドを確保してもらっておくなど切れ目のない医療の提供にも役立つと思います。

訪問件数を増やすために院長自身のリソースはどう確保されたのでしょうか。

楠本院長:少しずつ医師を増やして体制を整えていきました。やはり訪問診療は、外来と比べると顕著に時間がかかります。移動時間やご家族と話す時間を含めると、看護師も含めてマンパワーを増やさざるを得ませんでした。

さらに外来の診察後にも看護師が患者さんの生活の様子をお聞きしたり、ご家族に電話したり、ときにはそのままご自宅の様子を見にうかがったりなどもしています。「処方したお薬をちゃんと飲めているだろうか」など、生活のイメージができないとか、引っかかる点があったときは積極的に訪問しています。IT化で工夫しても、結局はスタッフの経験やカンに頼る部分が多いのも事実です。多少マンパワーがかかったとしても、こうした暮らしに根差した医療がこれからはますます必要になるだろうと考えています。

今後の展望、どのような医療を目指すのかを教えてください。

楠本院長:まずは効率化できるところは、とことん効率化をしていきたいです。新しいものが出れば当然取り入れるし、自分一人の力ではなくベンダーさん、業者さんからもどんどんアイデアをお聞きしたいと思っています。

その先には「在宅医療を通じたまち作り」をしたいと思っています。高齢の方が病院ではなくて、住み慣れた家で最期を迎えられるようなシステムを築きたいです。そのためには在宅医療の体制を十分に整え、医療・介護を提供する側の教育を持続的に行う必要があります。また、当院だけで実現できるようなものでもありません。結局は離れて暮らす家族がITのように便利なツールを使いつつ、情報や思いも共有できることが大切ではないかと思っています。ITに期待する部分も大きいですね。

クリニック名 楠本内科医院
院長 楠本 拓生先生
所在地 福岡県遠賀郡水巻町吉田東2-11-1
医院紹介 1947年に開業し、現院長が3代目となる地域密着型のクリニックです。医師4名の体制で外来はもちろん、訪問診療やオンライン診療に対応しています。在宅での腹膜透析など専門性の高い医療を地域のために提供し続けています。
作成日 2024年1月