医療DX令和ビジョン2030に見る、電子カルテの今後

20221012日、政府による医療DX推進本部が発足し、第1回の会合が開催されました。同本部の設置は、202267日に政府が閣議決定した「骨太の方針2022」で打ち出された内容に基づいています。また同本部は下部組織として「医療DX推進本部幹事会」を設置、厚労省では「医療DX令和ビジョン2030厚生労働省推進チーム」を設置しました。今後、これらの会議体で「医療DX」の推進が図られます。

本記事では、この2022年に示された医療令和DXビジョンで、特に主要テーマの一つとされている「電子カルテ情報等の標準化」の動きについてご説明します。

「医療DX」と「医療令和DXビジョン2030」について

まず「医療DX」とは何を指しているのでしょうか。その定義をみると、「保健・医療・介護の各段階(疾病の発症予防、受診、診察・治療・薬剤処方、診断書等の作成、診療報酬の請求、医療介護の連携によるケア、地域医療連携、研究開発など)において発生する情報やデータを、全体最適された基盤を通して、保健・医療や介護関係者の業務やシステム、データ保存の外部化・共通化・標準化を図り、国民自身の予防を促進し、より良質な医療やケアを受けられるように、社会や生活の形を変えること」としています。

この文章の中では、「情報やデータの全体最適」「システム、データ保存の外部化・共通化・標準化」がキーワードになると考えられます。デジタル化が遅れている医療現場では、医療機関と薬局、自治体などの間であるべき情報共有が行われず、情報活用が進んでいないことはみなさんも認識されているのではないでしょうか。特に新型コロナウイルス感染症の対応では、まさしくこの点の課題があちこちで露呈したのは記憶に新しいところです。

「医療DX」は医療現場のデジタル化を促進し、現場で生じている課題解決のために、医療を変化(Transformation)させることを目的としています。そしてこの「医療DX」を推し進めるためのプロジェクトコンセプトとスケジュール案を示したものが「医療令和DXビジョン2030」です。

「医療令和DXビジョン」は「骨格」として下記の3テーマを掲げ、ビジョンの三本柱としています。

この中の「電子カルテ情報等の標準化」についてこの後ご説明します。

電子カルテ情報等の標準化

この「電子カルテ情報等の標準化」では、現在、「電子カルテ情報のデータ交換方式の標準化」と「標準型電子カルテの検討」の2つの課題検討が進んでいます。

まず「電子カルテ情報の交換方式の標準化」について厚生労働省の資料を見ると、「医療機関同士などでのスムーズなデータ交換や共有を推進するため、HL7 FHIRを交換規格とし、交換する標準的なデータの項目及び電子的な仕様を定めた上で、それらの仕様を国として標準規格化する。」と示しています。

この「HL7 FHIR」ですが、HL7とはコンピュータ間での医療文書情報のデータ連携を標準化するための規格です。そしてこの規格には、データ構造のルールを定めるV2、V3、CDA、FHIRの4種類があり、このうち、グローバルな情報共有を意識し、また、医療情報をやり取りするためシステム開発の敷居を下げ、Webブラウザやモバイル端末など、機器やOSを選ばず、容易にデータ交換できるFHIRを標準規格として採用することになります。

さて、もう一つの課題である「標準型電子カルテの検討」では、上述した標準交換規格「HL7 FHIR」に準拠したクラウドベースの電子カルテを標準型電子カルテの開発を検討する、としています。詳細は231月現在明らかになっていませんが、2023年度中の調査研究事業を実施する予定とありますので、すでに開発に向けた議論は進んでいると思われます。

さらにビジョンでは、医療情報の共有のため、電子カルテ未導入の医療機関をなくすことが不可欠だとして、電子カルテ普及率を2026年度までに80%、30年には100%と目標設定しました。この目標達成のために上記の電子カルテの開発が進んでいます。

なお、このほかの検討予定として、「電子カルテの機能として患者自身が情報閲覧できる権限の設定」、「検査会社との情報連携」、「介護事業者との電子カルテ情報の共有」なども示されています。

医療DXの動きはこまめに情報収集が必要

クリニックの視点では、一連の「医療DX」の推進のなかでも、電子カルテの標準化と導入促進の動きが最も気になることの一つなのではないでしょうか。電子カルテは、院内のICTの要としてクリニックの運営に欠かせない存在ですが、クリニックの導入時の負担が大きく、また、製品の違いで外部とのスムーズな連携が難しいことがこれまでの普及の大きなハードルでした。電子カルテをめぐる行政やベンダーの方向性は間違いなく大きく変わりますので、「医療DX」の動きをこまめに情報収集し、トレースしてください。

今後電子カルテの導入、リプレースを検討されている場合、行政の動きに対するメーカーの対応の迅速さ、開発力、経営安定性(事業の存続性)などが選定ポイントとして重要になってくる可能性があります。

クリニックの先生方には「医療DX」の動きをこまめに情報収集し、トレースすることをお勧めします。「目利き医ノ助」では医療政策、電子カルテをめぐるトレンドなどの情報をさまざまな形で提供していきますので、ぜひご活用ください。