電子カルテのメーカーは入れ替えられる?メーカー変更の実態を徹底解説!

1999年に電子カルテが誕生して以来、普及率は伸び続け令和2年には約50%に達しました(※)。電子カルテは診療の効率化やミスの防止など医療現場にとって大変便利なものです。しかし、「もっと自分好みに使いたい」「導入したものの使いづらかった」などの不満を抱え、電子カルテのメーカー変更を考えている方も多いのではないでしょうか。本記事では電子カルテのメーカー入れ替えに関する実態について解説します。

厚生労働省:電子カルテシステム等の普及状況の推移 https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000938782.pdf

電子カルテのメーカー入れ替えは可能なのか?

結論から言うと、電子カルテのメーカー入れ替えは可能です。しかし、メリットばかりではありません。ここでは電子カルテメーカー入れ替えの実態やリスクについて紐解いていきましょう。

メーカーを入れ替えたいと思う理由

電子カルテのメーカー変更を検討する理由は以下の例があげられます。

  • 機能面:不具合が多い、機能が自身の医療機関に合っていない
  • 費用面:維持費・更新料が高い
  • その他:サポート体制に不満がある、サポートが切れる

使いづらい電子カルテはストレスがたまります。不具合が多いと診察が思うように進まず「効率化のために導入したのにこれでは意味がない」と感じるのももっともです。

また、費用の問題も検討要因になりがち。契約が切れるタイミングであれば、更新料とメーカー入れ替えのコストを比較してどちらが得か考えることでしょう。

メーカー入れ替えの実態

開業医248名に実施したアンケートでは、14%の医師が電子カルテのメーカー入れ替えをしたことがあると回答しています(※)。一方で、86%の医師は最初に導入した電子カルテを使い続けているということであり、メーカー入れ替えを経験した医師は少数派です。

メーカー入れ替えを考えるも、「メリットとリスクを天秤にかけた結果、踏みとどまった」という方もいるのではないでしょうか。次章ではどんなリスクがあるのか解説していきます。

日経HR:電子カルテに関するアンケート https://nm-kaigyo.nikkeihr.co.jp/career_labo/karte_enquete/008/

メーカーを入れ替えるリスク

電子カルテのメーカーを入れ替えるリスクはこちらです。

カルテの記録は診察の核です。過去のカルテがメーカー入れ替えによって閲覧できなくなってしまったら診療に支障が出ます。

また、メーカー入れ替えができたとしても、旧電子カルテを手放せるとは限りません。状況によっては新旧併用しなければならない場合も。メーカー入れ替えが吉と出るか凶と出るかはデータ移行にかかっているのです。

メーカー入れ替え時のデータ移行の実態

電子カルテのデータは以下の3つで構成されています。

① 患者データ:名前・住所等の個人情報、保険情報

② 医事データ:病名・処方・検査など請求と紐づいているレセプトデータ

③ 診療録データ:所見・経過、検査等のオーダー内容など

ひとりのカルテに多くの情報が詰め込まれており、どれも診療に欠かせません。しかし、電子カルテのメーカーを入れ替えると、すべての情報を移行できない可能性があります。

メーカー入れ替え時に移行できるデータ

前章で説明したデータ構造は、一般的に以下の領域に分けられます。

① 患者データ ▶ レセプトコンピュータ(以下レセコンと表記)領域

② 医事データ ▶ レセコン領域

③ 診療録データ ▶ 電子カルテ領域

①患者データと②医事データはレセプト請求に必要なデータなので、統一規格で記録されています。そのため、基本的にどのメーカー間でもデータ移行が可能です。

ただし、院外処方箋を発行して処方を行っている医療機関は注意が必要。処方データは②医事データにあたりますが、院外処方箋はレセプト上に「処方せん料」としか記載されません。薬剤名などの詳細情報は移行できないのです。

メーカー入れ替え時に移行できないデータ

③診療録データはデータ移行できないことが多いです。大部分が各メーカー独自の規格で記録しているため、所見や経過等の記録、過去のオーダー内容、アレルギー情報や作成した文書の情報も移行できません。

③診療録データが移行できないことによって生じる不利益はこちら

処方や検査は過去のオーダーがあれば一瞬でコピーできますが、メーカー入れ替え後は入力し直さなければなりません。また、文書も前回の記載と比較して書かなければならないものもあります。

3つのデータ構造のうち移行できないデータは1つだけですが、1つ移行できないだけで多くの困難が生じるのです。

メーカー入れ替え後の旧電子カルテの取り扱い方法

仮にメーカー入れ替えができたとしても、旧電子カルテを完全に処分できるとは限りません。ここからは新電子カルテ導入後の旧電子カルテの取り扱いについてお話しします。

メーカー入れ替え後の旧電子カルテの保存について

新電子カルテ導入後も旧電子カルテは保存しなければなりません。なぜなら、カルテは保険医療機関及び保険医療養担当規則によって5年間の保存が義務付けられているからです。

前提として「保存するカルテ」は以下の情報がすべて揃っていなければなりません。

1号用紙:患者の個人情報、保険・公費、病名に関する情報

2号用紙:所見等の経過欄、処方・検査・処置等の診療行為を記録した処方欄

3号用紙:診療ごとの会計内容(レセプト区分ごとの点数・金額)

新電子カルテに旧電子カルテのデータを移行したとしても、それは参照データでしかありません。旧電子カルテデータは原本のため、保存義務の対象となります。

メーカー入れ替え後の旧電子カルテの運用例

新カルテ導入後の旧電子カルテ運用例は2通りあります。

(1)旧電子カルテをそのまま参照する

①患者データ・②医事データを移行したうえで、移行できなかった③診療録データは旧電子カルテを参照する方法です。

この方法のメリット・デメリットはこちら。

メリット:旧電子カルテをそのまま参照するので、確認できないデータがない

デメリット:旧電子カルテを処分しないため、リース料金や保守料金が発生する可能性がある

過去のカルテがすべて参照できるのは大きなメリットです。一方で、メーカー入れ替えに高額な費用がかかるうえで、旧電子カルテにも料金がかかるのは費用面での負担が大きいでしょう。

(2)旧電子カルテのデータをPDF出力して参照する

もうひとつは①患者データ・②医事データを移行したうえで、移行できなかった③診療録データをPDF出力し、新電子カルテ上で参照する方法です。

この方法のメリット・デメリットはこちら。

メリット:旧電子カルテを残しておく必要がない

デメリット:全カルテをPDF出力するには膨大な手間がかかる。PDF出力できないデータもある。

旧電子カルテを残す必要がないのでそこに料金がかかることはありません。しかし、全患者分のカルテをPDF出力する労力は膨大です。

この方法を選択する場合、カルテデータをPDF移行する専用サービスの利用を検討してもよいでしょう。

メーカー入れ替えをすることで起こりうる事態

最後に電子カルテのメーカー移行によって起こる可能性がある事態をお話しします。状況が予想できれば対策も可能です。

新しい電子カルテを使いこなせない

電子カルテのメーカー入れ替えによる最も多いトラブルは「使いこなせない」ということです。

慣れるまでは操作がうまくできず診察や会計作成に時間がかかります。それはスタッフの負担だけでなく、患者さんの待ち時間が長くなるということ。効率化を狙ってメーカーを入れ替えても、患者さんの不満が増えては意味がありません。

事前にシステム変更の告知をしたり、万が一長い待ち時間が発生したときの対応を考えたりしておくとよいでしょう。また、メーカーを選ぶ際に、診察の流れに則した機能が備わっているか確認することも重要です。

人件費の増加

システムの変更にトラブルはつきものです。診察中のみならず、レセプト提出段階になって不具合発生ということも。メーカー入れ替えの結果、対応に追われ残業が増えたという医療機関も少なくありません。効率化やコストカットを目的としてメーカー入れ替えをしても、人件費が増えてしまったら本末転倒です。残業はスタッフの負担にもなります。

こちらも事前に「レセプト準備の日程に予備日を設ける」等の対策をたてるとよいでしょう。

電子カルテのメーカー入れ替えは慎重に

電子カルテのメーカー入れ替えを検討するときは以下のような注意が必要です。

不満があるとメリットばかりに目が行きがちですが、メーカー入れ替えにはリスクがあるのも事実。新電子カルテ導入後は「今まではこうできていたのに」「この機能はあると思っていた」など想定外のことも発生しやすくなります。慣れるまではスタッフの負担も避けられません。

負担と入れ替えのメリットをしっかりと比較し、慎重に検討することがメーカー入れ替えを成功させるカギとなるでしょう。

 

電子カルテ入れ替えの相談は、「目利き医ノ助」へ

このように、電子カルテのメーカー変更は可能ですが、注意すべきポイントが多く、容易に入れ替えることはできません。そのため、前提として電子カルテを初めて導入する際には、「自院に合ったメーカー」を選ぶことが必須です。しかし、もし入れ替えを考えているのであれば、プロの力を借りることも一つの方法です。

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