クリニックのPACSの選び方と注意点

PACSも、電子カルテなどと同様にクリニックの運営に欠かせないシステムのひとつです。画像検査の高度化や各クリニックでの診療内容がより専門的になっていることにともない、医療画像の適切な管理、運用、保管が求められます。

ただし日常的に診療で直接操作する電子カルテと異なり「どのようにPACSを選べばよいかわからない」「そもそも誰に相談したらよいのか」などと疑問をもつ先生も少なくないでしょう。

この記事では、PACSの仕組み、PACSの種類と選び方などを解説します。

PACSとは何か

PACS(Picture Archiving and Communication System)は、医療用画像管理システムのことを指します。

X線、CT、MRIなどの検査で撮影した画像データのほか、超音波、内視鏡など放射線を使用しない機器で撮影した画像もDICOM(Digital Imaging and Communications in Medicine、ダイコム)という国際標準の規格によって一元管理できます。

PACSは撮影された画像データを機器から受信し、医師らが閲覧できるようにし、管理や保管を行うためのものです。

最近は画像の数が多く、高画質なものを求める先生が多くなっている傾向です。すると保管庫である「本棚」のサイズを大きくしなければなりません。当然、費用も高くなります。クラウドという手段もありますが、必要容量が多いと高額になるのは同じです。

PACSによる性能の差は、どの程度あるのでしょうか。

PACSが欠かせないクリニックが増えている背景

診療科によって医療画像への依存度に差はありますが、クリニックでの検査診断が高度化してきたため、エコーやレントゲンの画像に加えて、CT・MRIなど容量の大きな画像撮影の機会が増えています。

デジタル化・ネットワーク化の波により、CTやMRIなどを扱うクリニックでは通常よりも高度なスペックのPACSが必要となるでしょう。

適切なPACSを導入するメリット

クリニックにとって適切なPACSを導入するメリットを紹介します。

まずは過去の画像を瞬時に読み出せる点、そして過去に撮影した画像とひとつのモニター内で比較できる点があげられます。患者さんにとってもわかりやすい説明が可能です。

また複数の医療機関で情報を共有する場合にも、画像ファイルを授受すればよいので受け渡しがスムーズで便利だといえるでしょう。

PACSの種類と特徴

PACSは、多くのメーカーから発売されています。選定の前に、どのような種類があるかを解説します。

CR・DRメーカーの製品

レントゲン撮影を行ったカセッテを読み込むCR(コンピュータ X 線撮影)機や、X線エネルギーを電気信号に変換して画像を生成するDR(デジタル ラジオグラフィー)のメーカーが提供するPACSです。

簡易的な機能が備わっており、価格が安いものです。専門的で高度な画像検査を行わないクリニックで選ばれることの多い製品といえるでしょう。

PACS専門メーカーのオンプレ型製品

PACS専門メーカーが手掛ける製品は、検査数が多く容量が必要なクリニックに適しています。電子カルテと同じくPACSにもクラウド型とオンプレミス型があり、オンプレは院内サーバーに検査画像を保存する仕組みです。

自前のサーバーを設置する必要があるものの、院内に画像データを保存できるため処理速度が早いこと、必要に応じて容量を増やせることなどがメリットです。

PACS専門メーカーのクラウド型製品

同じくPACS専門メーカの製品で、クラウド上に画像データを保管するタイプのものもあります。

クラウド型は、他施設のデータを共有しやすい点やサーバーの保守を自院で行わなくてよいのがメリットです。通常、オンプレ型に比べると初期費用を抑えられる点も特徴といえますが、月々のシステム利用料がかかります。そのため、大容量が必要になるほど維持費も高くかかる点は注意しなければなりません。

PACSを選ぶ際のチェック項目

次に開業に向けた準備のなかで、PACSをどのように選ぶべきか、手順について解説します。

チェック1:使用するモダリティを決める

まずクリニック開業に向けて、導入するモダリティの種類を明確にします。さらに提携先でどのような画像検査を行うかもイメージしてください。

標榜科が複数ある場合は、診療科によって撮影画像の種類や規格が異なる場合があるため注意が必要です。

皮膚科、産婦人科など放射線を使用する頻度が少ない場合は、医療機器に付随している独自のシステムや比較的安価なクラウド型でも十分間に合う可能性があります。

チェック2:撮影量・保存量を予測する

次に1日に来院する患者さんの見込み数、画像の撮影が必要な割合などから用意すべき容量を算出します。

開業して数年以内に画像データが飽和するケースはほぼないでしょう。しかし年数が経過すると様相が変わります。法律で定められた医療画像とカルテの保存義務年数はそれぞれ2年、5年です。しかし必要年数を過ぎたからといって画像データを「消す」と答える先生は、多くありません。そのため年数が経つほど、保存容量は増え続けます。

また新たな医療機器の購入、画像検査の導入を行うと、従来のPACSでは対応できない場合があります。このとき、抑えた初期費用を上回る追加費用が生じるケースもあります。将来を見越したビジョンが求められます。

チェック3:電子カルテとの相性や操作性を調べる

PACSを選ぶ際には、診療の基幹システムである電子カルテとの相性も確認するとよいでしょう。電子カルテを操作しながら、簡単に画像を読み出せることは診療効率化に欠かせない要素です。

また専門メーカーの製品を導入する場合は、デモ操作を体験して、見た目の画面も確認することが大切です、

大型の医療機器は院内全体のレイアウトにかかわるため、物件を選ぶ段階やレイアウトを決める時点で選定を済ませる場合もあります。医療機器の買い替えはできても、電子カルテの診療録や医療画像の情報は、必ず引継ぎが必要になるため慎重に選ぶ必要があります。

PACSを選ぶ際のおすすめの方法

PACSは、院長が行いたい医療の内容と密接に関連します。開業時だけでなく、10年程度先を見越して「どのような医療を提供したいか」を考える必要があります。

導入するモダリティや医療画像の撮影、保存量を想定し、早めに専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。

初期費用だけの比較ではなく、使い勝手、長い目でみたコストも計算したうえで最適なPACSを選ぶとよいでしょう。