高齢者の医療費が2割→3割へ?医療費負担増に備える!クリニックが今できる準備とは

2025年10月から、75歳以上の医療費の自己負担が本格的に2割に切り替わりました。さらに今後、3割負担が導入される可能性が議論されています。

この変化は、患者さんだけでなく、クリニックの運営にも大きな影響を与える可能性があります。支払う金額の変更によるトラブルや、受診控えによる収益の減少など、さまざまなリスクが考えられるでしょう。

この記事では、こうした制度変更について解説し、クリニックが今できる具体的な対策を紹介します。早めに備えることで、患者さんにも安心してもらえる医療環境を整えるために参考にしてください。

高齢者の医療費が引き上げられる原因

高齢者人口と社会保障費の推移

今、日本は「超高齢社会」と呼ばれる時代に入り、2024年時点で75歳以上人口は2,078万人で総人口に占める割合の16.8%を占めています。

特に、2025年には「団塊の世代」が75歳以上となり、今後、後期高齢者の割合がさらに増加すると言われています。

この高齢化により、医療費や介護費などの社会保障費は増え続けており、2025年度の予算ベースで約140.7兆円に達していました。

このままでは、現役世代の負担が大きくなり、制度そのものが続けられなくなる可能性があります。

そこで政府は、「持続可能な医療制度」へとシフトするために、高齢者の医療費の負担割合を見直す動きを進めています。とくに、ある程度の年収がある高齢者には、現役世代のように医療費を自己負担して負担を求める動きが進むでしょう。

現在の高齢者医療費負担

高齢者の医療費負担割合

75歳以上の後期高齢者は、現在、所得に応じて以下のように医療費の自己負担割合が決まっています。

負担割合 判断基準 該当人数割合
1割負担 課税所得28万円未満 約73%(多くの人が該当)
2割負担 課税所得28万円以上 約20%(2022年から新たに導入)
3割負担 課税所得145万円以上 約7%(現役並みの収入がある人)

【参考元】厚生労働省|医療費の一部負担(自己負担)割合について

もともと、1割負担と3割負担の2種類でしたが、2022年10月からは、新たに「2割負担」が始まりました。この制度は段階的に導入されており、2025年10月までは経過措置期間とされています。

2割負担の経過措置として、負担増額が3,000円以内となっていましたが、2025年10月に終了しています。2割負担に該当する約20%の高齢者にとってこれまでよりも自己負担額が実質的に増加しました。

負担が増えた2025年10月以降も、高額療養費制度により外来の自己負担の上限額は変わらず、月18,000円(年間144,000円)までとなります。

「3割負担」も現実に?高所得者層への導入の議論

現在、現役並み所得がある課税所得145万円以上の高所得者は3割負担になっていますが、今後さらにこの対象が広がる可能性があります。

高齢者は現役世代に比べて外来の受診頻度が高く、外来受診者のうち約4割が毎月診療を受けている状態です。一方で高齢者は窓口負担が原則1割で高額療養費の恩恵も受けているため、医療費が高額な割に負担が少ないことが問題視されています。

このため、医療費が増えるなかで、財源を確保することが必要です。とくに、現役並みの収入がある高齢者については、「現役世代と同じように3割負担にすべき」という意見があります。

現段階ではまだ国会で議論中のため具体的なことはわかっていませんが、今後の動向を注視する必要があるでしょう。

医療費負担増がもたらす、患者とクリニックの“リアル”

医療費の負担が増えることで、想定される問題は以下のものがあります。

患者さん側 クリニック側
  • 「病院に行くとお金がかかるから…」と受診を控える
  • 慢性疾患の治療をやめて、病状を悪化させてしまう
  • 突然の医療費増加に驚いて「高すぎて払えない」と不満を持つ
  • 患者数の減少により、売上が減る
  • 「聞いていない」「高い」というクレームやトラブルが発生
  • 保険証の情報と実際の負担が一致せず、会計ミスが起きる

とくに注意したいのは、患者さんが負担割合の変更に気づかないまま来院するケースです。会計時に思っていた金額と違い、「こんなに取られるなんて…」という反応が出て、最悪の場合、未収になる可能性があります。

こうした問題を未然に防ぐためにも、クリニック側が先回りして情報を伝えることが重要になります。

医療機関が今すぐできる、3つの実務対応

負担割合変更に伴う医療機関の対応

急な制度変更にあわてないために、クリニックが今からできる準備は、以下の3つです。

それぞれくわしく解説していきます。

① 会計システム・レセコンの確認と更新

医療費の自己負担額は、レセプトコンピュータ(レセコン)や電子カルテに組み込まれた会計システムによって自動で計算されます。

しかし、制度が変わったときにこのシステムが古いままだと、間違った負担割合で請求してしまう可能性があるでしょう。

たとえば、制度改正に気づかず、2割負担の患者さんを1割で計算してしまうと、本来受け取るべき医療費を取り逃がしてしまうことになります。逆に、1割負担の患者さんに2割を請求してしまうと、「多く払わされた」とクレームにつながる可能性もあります。

こうしたミスを防ぐためには、以下のことを準備しておきましょう。

事前にシステムについて確認しておくことで、余裕を持って対応できるのでおすすめです。

② 患者へのわかりやすい案内

制度の変更は、医療機関だけでなく患者さんにとってもとても分かりにくいものです。そのため、クリニックからのやさしく丁寧な説明をすることで、患者さんも安心して受診できます。

おすすめの案内方法は次のとおりです。

こうした工夫を重ねることで、「そんな話は聞いていない」「急に医療費が高くなった」といった誤解やトラブルを防ぐことができます。また、事前に説明を受けていれば、患者さんも納得しやすくなります。

わかりやすく、誠実に伝えることがクリニックへの信頼を守る第一歩になり、患者さんの満足度も上昇するでしょう。

③ オンライン資格確認・マイナ保険証の活用

マイナンバーカードを健康保険証として使う「マイナ保険証」と、それを読み取って情報を確認する「オンライン資格確認」を使うことで、患者さんの保険情報や負担割合がリアルタイムで正確に確認できるようになります。

この仕組みを導入すると、次のようなトラブルを防げます。

また、システム上で正しい負担割合が表示されるため、会計時の金額の間違いが減り、スタッフの負担も軽くなり、これからの医療現場に欠かせない仕組みです。

>>【関連記事】マイナ保険証がスマホで使えるように:クリニックが知るべき対策と課題

まとめ

日本では高齢化が進み、医療費の自己負担割合も見直されています。

2025年には、75歳以上の高齢者が2割負担に本格的に移行しました。さらに今後は、課税所得が高い高齢者に対して3割負担を導入する動きも検討されています。

こうした制度変更により、受診を控える患者が増えたり、会計窓口でのトラブルが発生したりする可能性があります。とくに、負担割合の変更に気づいていなかった患者が、診療後に支払額の増加に驚き、不満やクレームにつながることが懸念されます。

このような混乱を防ぐためには、クリニックとして事前に対策を講じておくことが大切です。具体的には、次の3つの対応が有効です。

医療費制度は常に変化する可能性がありますが、こうした変化に柔軟に対応できる体制を整えておくことで、患者さんとの信頼関係を保ち、クリニック経営の安定にもつながるでしょう。

高齢者の医療費負担見直しにともない、クリニックではレセコンや会計システムの設定確認、オンライン資格確認の導入など、さまざまな対応が求められています。

目利き医ノ助は、こうした制度変更にもスムーズに対応できるよう、電子カルテやレセコンの導入・見直しに強い専門企業やコンサルタントをご紹介するサービスです。

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