
2025.07.14
SOAPを電子カルテで効果的に運用する方法と記載のポイントを解説【目利き医ノ助】
SOAPとは?基本的な考え方と記載方法

SOAP記載の目的と診療記録へのメリット
医療現場においてSOAPとは、患者の状態を体系的に把握し、診療情報を明確かつ一貫した形で記録するためのフレームワークです。SOAPは「S(Subjective)=主観的情報」「O(Objective)=客観的情報」「A(Assessment)=評価」「P(Plan)=計画」という4つの要素で構成されています。もともと医療現場で患者情報を整理し、適切な治療やケアを提供する目的で広く普及しました。
SOAP記録を導入する目的は、医療者間の情報共有を円滑化し、患者に提供する医療の質を高めることにあります。SOAPの記録形式は、診療に関わる複数のスタッフが患者情報を一目で理解しやすく、次回の診療時にも迷うことなく適切な対応を取れるように工夫されています。また、患者情報が整理され一貫した診療対応が可能になることで、患者満足度が向上します。患者満足度の向上は口コミや評判を通じてクリニックの集客・集患対策にも貢献するため、SOAPを活用した記録管理は経営的にも大きなメリットがあるのです。
具体的には、SOAP記録により以下のようなメリットが得られます。
・診療内容が明確かつ簡潔にまとまり、医療スタッフ間での情報共有が迅速化する
・診療プロセスの透明性が高まり、医療ミスや情報漏れのリスクを軽減できる
・長期的な治療や経過観察を要する患者に対して、一貫性のある医療提供が可能になる
・過去の診療内容や患者の経過を容易に振り返ることができ、診療の質が向上する
S(主観的情報)、O(客観的情報)、A(評価)、P(計画)各項目の具体的内容
SOAPは4つの要素から構成され、それぞれ明確な意味を持っています。各項目について具体的な内容と記載すべきポイントを以下に示します。
【S:主観的情報(Subjective)】
患者が自覚する症状や訴えを記録します。これは患者自身の言葉を可能な限りそのまま記載し、患者の感じている症状を正確に把握することが目的です。
・患者が感じている症状(痛み、違和感、不快感、疲労感など)
・発症のタイミングや期間(「いつから症状が出ているか」など)
・症状の増悪要因や緩和要因(「どのような状況で悪化・改善するか」)
・患者が抱えている心理的な要因(不安、ストレスなど)や生活習慣(喫煙、飲酒、運動不足など)
<記載例>
「昨日から頭痛がひどく、痛み止めを飲んでも改善しない」
「夜間になると咳が悪化する」
「仕事のストレスで眠れない」
【O:客観的情報(Objective)】
医師や医療スタッフが客観的に観察・測定した患者の状態を記録します。ここでは主観的な判断を避け、できるだけ数値や観察結果を明確に記載する必要があります。
・身体所見(視診、触診、聴診、打診などの結果)
・検査結果(血圧、体温、心拍数、血液検査データ、画像診断結果など)
・患者の表情や態度、行動など客観的に観察された情報
・診療に関連する過去の記録や病歴情報
<記載例>
「血圧 140/90 mmHg、体温 37.8℃」
「胸部レントゲン検査で右下肺野に浸潤影あり」
「患者は緊張した表情で落ち着きがない」
【A:評価(Assessment)】
主観的情報(S)と客観的情報(O)を総合的に判断し、患者の状態を医師が評価します。具体的な診断名や疑いのある疾患名、現在の状態に対する判断などが含まれます。
・明確な診断または疑われる疾患名
・現状における患者の健康状態の評価
・症状の進行状況や改善・悪化に関する判断
・今後の診療で注意が必要な問題点の抽出
<記載例>
「気管支炎の疑い」
「降圧薬投与後も血圧が安定しないため、治療方針の見直しが必要」
「症状は改善傾向にあるが、依然として定期的なフォローアップが必要」
【P:計画(Plan)】
評価(A)を踏まえた今後の診療や治療計画を具体的に記載します。ここでは、次回の診療や検査予定、薬物治療方針、患者への生活指導などが含まれます。
・治療や投薬に関する具体的な指示
・次回の診療日時やフォローアップの予定
・必要な検査や追加の診察、専門医への紹介など
・患者に対する生活指導や自己管理方法の指示
<記載例>
「抗生剤を処方、1週間後に再診」
「降圧薬の量を調整し、次回診察で再評価」
「症状悪化時は直ちに来院するよう指導」
電子カルテ導入時にSOAPを活用するメリット

電子カルテにおけるSOAP記録の利便性
近年、多くの医療機関が電子カルテを導入し、診療記録の電子化が進んでいます。その際にSOAP形式で情報を整理すると、さらに効果的に電子カルテを運用できます。
電子カルテでSOAP形式を用いることにより、記録の標準化・明確化が実現されます。医師や看護師など複数の医療スタッフ間での情報共有がより迅速かつ正確になり、患者の状態や診療の経緯を簡潔に把握できるという大きな利便性があります。
特に電子カルテは検索性やデータの集約性が高いため、SOAP記録によって必要な情報を簡単に見つけ出せます。診療履歴や過去の治療計画、検査データなども効率的に参照でき、診療プロセス全体の質が向上します。
さらに電子カルテにおけるSOAP記録は、外来や病棟間など異なる診療現場でも一貫した記録方法として運用が可能です。そのため、診療の継続性や情報の一貫性が保たれ、より精度の高い医療サービス提供につながります。
業務効率化と診療記録の質的向上への貢献
SOAP記録を電子カルテで運用すると、診療現場での業務効率化が大幅に改善されます。まず、医療スタッフがカルテを作成する際の迷いが少なくなり、短時間で正確な記録が作成できます。これは、診療に関わる各スタッフが、SOAPという標準化されたフォーマットを使って情報を整理するためです。
業務効率化の主な要因は以下の通りです。
・必要な診療情報をスピーディーに検索・閲覧できる
・記録内容の統一化により、カルテを読み取る時間を短縮できる
・医療スタッフ間での情報伝達や申し送りの時間が大幅に短縮される
診療記録の質も向上します。SOAP記録により、診療時の観察・評価・治療計画が明確に整理されることで、診療内容が具体的かつ透明になります。医療の質の向上や診療ミスの低減に寄与する点でも、電子カルテとSOAPの組み合わせは非常に有効と言えます。
電子カルテでSOAPを運用する際のポイントと注意点

SOAP記載を電子カルテで行う場合の基本ルール
電子カルテ上でSOAPを記録する場合は、以下の基本ルールを守ることで、診療記録の質を高く維持できます。
・S(主観的情報)は患者の言葉を用いて記載する(「○○と訴える」「○○と感じている」など具体的に記載)
・O(客観的情報)は数値や明確な観察結果を中心に記載し、曖昧な表現を避ける
・A(評価)は診断名や問題点を明確に記載し、根拠となる主観的・客観的情報を整理してまとめる
・P(計画)は具体的な治療や指示内容、次回の診療計画を明確に記載する
・記載は簡潔かつ明瞭に行い、冗長な記録を避ける
・必要に応じて箇条書きや番号を使用し、情報を整理して記載する
記載漏れやミスを防ぐための工夫
電子カルテでSOAPを記録する際には、記載漏れやミスが発生する可能性があります。これらを防ぐための具体的な工夫を導入することで、質の高い診療記録を維持できます。
まず、記録時にテンプレートを用いると、SOAPの各項目に漏れなく記載ができ、ミスを大幅に軽減できます。SOAPのフォーマットに沿ったテンプレートを標準化し、医療スタッフ全員が共有して使用することで、記録漏れや記載ミスを減らせます。
また、電子カルテの機能を活用し、記録内容の自動チェック機能やアラート設定を行うことで、重要な情報が未記入の場合には警告を表示する仕組みも有効です。
こうしたシステム的な工夫と同時に、定期的にスタッフ間で記録内容のレビューや意見交換を行い、SOAP記録に関する教育や意識付けを継続することも、記載ミスを防ぐために重要です。
診療科ごとのSOAP記録で注意したいポイント
診療科によって患者の状態や治療方針が大きく異なるため、SOAP記録においても診療科ごとの特性に応じた記載方法を意識する必要があります。
例えば、内科系診療科では血圧や血糖値などの定量的なデータを明確に記載することが重要です。特に慢性疾患を抱える患者では長期的な数値の変化や経過を的確に記録しておくことが求められます。
一方、精神科や心療内科などでは患者の主観的情報(S)が特に重要であり、患者の言葉を細やかに記載し、評価(A)において心理的な側面を深く考察することが求められます。
外科や整形外科などでは、画像診断や手術記録など客観的情報(O)の詳細な記載が不可欠です。また、計画(P)の項目で手術後の管理やリハビリ方針を具体的に記録し、継続的な治療に役立てます。
このように診療科ごとにSOAP記録の重点を置く項目が異なるため、各科特有の注意点を明確に理解し、記録に反映させる必要があります。
「S(主観的情報)」を適切に記載するための具体例とコツ

患者の主訴や症状を正しく記載する方法
SOAP記録の「S(主観的情報)」では、患者が自ら訴える症状や感じていることを正確に記載します。この項目は患者の視点に立った情報収集であり、患者自身の言葉や表現を可能な限り忠実に反映することが重要です。診療時に医療者が主観的な判断を混ぜず、患者が話したことをそのまま客観的に記録する姿勢を心がけましょう。
例えば、「頭痛があります」という患者の訴えに対し、「強い頭痛がある」「脈打つような痛みを感じる」など、患者が実際に使った表現を用いて具体的に記載します。こうすることで、患者が訴えた状況を明確に捉えることができます。
また、患者が述べた痛みの部位や性状(鈍痛・刺すような痛みなど)、症状の経過(いつから症状があるか、改善または悪化したタイミングなど)も細かく聞き取り、患者の言葉を使って具体的に記録するようにします。
患者の言葉を活用しつつ記録を正確にするポイント
患者の主観的情報を適切に記載するためのポイントは以下の通りです。
・患者の言葉をそのまま引用する形で記録する(例:「胸が締めつけられる感じ」「夜間に強い痛みを感じる」など)
・症状が発現した状況やタイミングを具体的に記載する(例:「2日前の夜から症状が現れた」「朝方になると特に痛む」など)
・痛みや不快感の強さを患者自身の表現で表す(例:「今までにないほど強い痛み」「我慢できないくらい痛む」など)
・心理的・感情的な訴えも記録する(例:「不安感が強く眠れない」「イライラして落ち着かない」など)
患者の言葉を使って具体的に記載することで、患者自身が症状をどのように認識しているかが明確になり、診療方針の判断や継続的なケアに役立ちます。
「O(客観的情報)」の正確で効率的な記載方法

診察時の観察や検査結果を客観的に表現する具体例
SOAP記録の「O(客観的情報)」は、医療者が診察時に直接観察した内容や検査結果などを客観的に記載します。主観的な解釈を混ぜず、明確な事実に基づいて記録することが求められます。
診察所見については、「血圧120/80 mmHg、脈拍72回/分」などのように定量的で正確な情報を記載するのが基本です。また視診や触診で得た情報を「発赤あり」「右下腹部に圧痛を認める」など具体的に記録します。
検査結果については、血液検査の数値やレントゲン・エコー検査の所見を漏れなく記載することが重要です。例えば、「Hb 11.2 g/dL」「CRP 3.5 mg/dL」といった数値を明確に示し、患者の状態を客観的に把握できるようにします。
重要な臨床データを漏れなく効率よく記載する方法
SOAPの客観的情報を効率よく記録するためには、あらかじめ記録項目をリスト化し、テンプレートを作成するのが効果的です。特に日常的に観察が必要な項目を決めておき、それをテンプレート化することで、記録漏れを防ぐことができます。
また、電子カルテの機能を最大限に活用することもポイントです。例えば、バイタルサインや検査結果をカルテに自動転記する機能を使えば、ミスなく効率的に重要なデータを記載できます。
さらに、複数の医療スタッフが患者を診察する場合は、客観的情報の記載ルールを統一化し、どのスタッフでも一貫した記録ができるように体制を整えることも大切です。これにより、診療の継続性が向上し、患者ケアの質も高まります。
「A(評価)」を効果的に活用するための記載ポイント

診断や問題点を明確に評価する具体的な記入方法
SOAPの「A(評価)」は、主観的・客観的情報を踏まえたうえで患者の病状や問題点を医療者が評価する部分です。診断名や症状の原因、治療効果などを簡潔かつ明確に記載する必要があります。
具体的には、診断名をまずはっきり記載し、「急性胃腸炎の疑い」「糖尿病コントロール不良」など問題点を簡潔に表現します。また評価の根拠となる検査結果や症状を具体的に示し、なぜそのような評価を下したかを記載します。
例えば、「糖尿病コントロール不良:HbA1c 8.5%と前回より上昇傾向で、食事療法の遵守が不十分」といったように、具体的なデータを添えて評価を明確化することが重要です。
評価内容が次回診療に役立つ記録の作り方
評価項目では、次回以降の診療がスムーズになるよう、課題や経過を明確に記録することが求められます。例えば慢性疾患の場合、前回との比較を示し、改善傾向か悪化傾向かを評価として示すことが次回診療の指針になります。
評価内容を記載するときは、以下の点を意識しましょう。
・主観的・客観的情報をもとに、患者の現状を明確に評価
・前回との比較を入れ、経過の方向性を示す(改善・悪化・不変)
・治療介入の必要性や問題点を明確に指摘
このように、評価の記録が具体的かつ明確であるほど、診療計画の立案や実施が効率的になり、次回診療の質向上につながります。
「P(計画)」の明確で実践的な記録法

診療計画・治療方針を分かりやすく記載するコツ
SOAPの「P(計画)」は、医療者が評価をもとに実際の診療や治療をどのように進めていくかを具体的に記載する部分です。患者の診療が次回以降もスムーズに進むよう、治療方針や次回受診時に行うべきことを明確に記録する必要があります。
記録する際には、診療・治療計画をシンプルかつ明確に示し、「次回の診察時に血液検査を実施」「1週間分の抗生剤を処方」「日常生活の指導を継続」などと具体的な内容を書くことが大切です。さらに、具体的な期限や実施時期も添えて、「2週間後に再検査」「1ヶ月後にフォローアップ診療」と明記することで、計画がさらに明確になります。
また、他のスタッフや診療チームが見ても理解できるよう、患者への指導内容や教育計画も含めて記載することで、チーム医療の質が向上します。
次回以降の診療がスムーズになる記録ポイント
・次回診療日・再検査日を具体的に明記(例:「次回受診日:6月15日」)
・処方薬剤の具体的な内容と投与期間を明示(例:「アモキシシリン250mg、1日3回、7日間処方」)
・予定している検査や処置の具体的な内容を記載(例:「次回来院時に採血、胸部レントゲン撮影」)
・患者や家族に対する指導内容を明確に(例:「血糖値記録の継続指導」「食生活改善を再確認」)
・次回診察で確認すべきポイントを挙げる(例:「副作用の有無を確認」「症状改善状況の把握」)
以上のように、P(計画)を具体的に記載することで、患者ケアの連続性が維持され、診療が円滑に進行します。
SOAP記載の質を向上させるためのスタッフ教育法

スタッフ間での記録レベルを統一するための工夫
SOAP記録の質を一定以上に保つためには、医療機関内でスタッフ間の記録ルールや表現方法を統一することが必要です。そのためには、具体的なSOAP記載マニュアルや記載例を作成し、スタッフ全員に共有することが効果的です。
定期的な勉強会やミーティングを開き、スタッフが実際に記録した内容をフィードバックしあうことで、記録の質が改善されます。また、新入職員や経験の浅いスタッフに対しては、OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)を導入し、実際の記録業務を通じてSOAP記載の基本を習得してもらう方法も効果的です。
スタッフ間でSOAP記録に関する疑問や課題を定期的に話し合う機会を設けることで、記録の一貫性を高め、診療記録の質的向上が図れます。
SOAP記載トレーニングの効果的な方法と導入事例
SOAP記載のトレーニングを効果的に行うためには、実際の症例を用いたロールプレイや模擬記録演習が有効です。具体的な患者ケースを設定し、スタッフ同士で役割を決めて主観的情報を聞き取り、客観的情報を記録し、評価と計画を作成するプロセスを体験します。
さらに、過去の記録から優れたSOAP記載例をピックアップし、なぜその記録が良いのかを具体的に示すことで、記録のポイントを明確に理解できます。
例えば、定期的に開催される院内勉強会で以下のようなトレーニングを実施している医療機関があります。
・ロールプレイを通じて患者から情報を正確に引き出す練習
・症例を用いた模擬SOAP記録作成とそのディスカッション
・優れたSOAP記載例を示し、記載内容の分析・共有
こうした取り組みを継続することで、スタッフ全体のSOAP記録スキルが向上し、診療品質の向上に役立ちます。
電子カルテによるSOAP運用を成功させるためのサポート

電子カルテとSOAP記載の最適化で業務効率を高める方法
電子カルテシステムは、SOAP記録を効率的かつ正確に記載・管理するために非常に有効なツールです。SOAPフォーマットをテンプレート化し、各項目ごとに入力欄を設けることで、記載漏れを防ぎ、統一された記録形式を保つことができます。
また、検査データや過去の診療記録を簡単に参照・引用できる仕組みを導入することで、診療中の業務効率が大幅に向上します。さらに、電子カルテ上で記録内容の標準化や入力支援機能を利用することで、記録作業の手間を削減し、医療スタッフの業務負担も軽減されます。
運用サポートの活用で診療品質を維持・向上させるコツ
電子カルテ導入後は、専門家による運用サポートを利用することで、診療品質の維持・向上を図ることが可能です。運用サポートでは、電子カルテの活用状況を分析し、課題を明確にして改善提案を行います。例えば、以下のようなサポートが受けられます。
・電子カルテ導入初期の記録方法指導やトラブル対応
・記録テンプレートの改善・カスタマイズ提案
・SOAP記載の運用状況モニタリングと改善支援
・定期的なスタッフ教育・トレーニングの実施サポート
これらのサポートを活用することで、電子カルテ運用の質が向上し、患者に提供する医療サービスの品質も安定します。
電子カルテ導入・運用の専門家サポートのメリット
専門家のサポートを受けることで得られる具体的なメリットは以下の通りです。
・導入時の設定や運用ルール作りの円滑化
・SOAP記載テンプレートの最適化による業務効率改善
・定期的な運用状況分析と問題点の早期発見・改善
・記録品質の向上に向けたスタッフ教育支援
・トラブル発生時の迅速な対応と解決支援
専門家のサポートを活用することで、電子カルテ導入・運用の負担を軽減し、診療現場の業務効率化と患者サービスの向上を実現できます。