電子カルテの価値と歴史~オンプレミスとクラウド、導入のコツを解説~

クリニックを新規で開業する際、今や電子カルテは欠かせない存在です。しかし、勤務先の病院でしか電子カルテを使ってこなかったドクターにとっては、電子カルテの選び方が分かりにくいのではないでしょうか。
この記事では電子カルテの歴史をひもとき、その価値や意義を解説します。具体的に電子カルテを選定する前にぜひ参考にしてください。

1. 電子カルテの歴史 

近年、新たに開業するほとんどのクリニックは、電子カルテを開院時に導入するといわれています。クリニックを含めた医療機関で、カルテが「紙」から「電子」へどのように変わってきたかをご説明します。

日本の電子カルテは1990年代から普及 

日本では1970年代から医療分野でITの実践・運用が進んだ結果、医事会計システム、臨床検査システム、オーダーエントリーシステムが導入されるようになり、1980年代には診療報酬明細書を作成できるレセプトコンピューターが普及するようになりました。電子カルテが稼働し始めるようになったのは1990年代に入ってからです。

1999年には厚生労働省が「法令に保存義務が規定されている診療録及び診療諸記録の電子媒体による保存に関するガイドライン」を通知し、電子カルテの指針として「真正性」「見読性」「保存性」の確保の必要が示されました。このガイドラインは、電子媒体でのカルテ保存を法的に認めたものです。ガイドラインによって電子カルテが国のお墨付きを得たことから、1999年を境に電子カルテの普及が進みます。

普及率の推移 

1999年以降、着実に普及が進んだ電子カルテですが、海外に比べて電子カルテの普及率が低いのが現状です。厚生労働省のまとめによると、2020年の段階でクリニックの電子カルテの普及率は50%未満です。

 

政府が提唱する「医療DX令和ビジョン2030」には、電子カルテ普及率の目標を「2026年までに80%、2030年までに100%」と掲げられています。背景には「電子カルテ情報を標準化し、全ての医療機関に普及させることによって、各医療機関で別々に管理している電子カルテのデータを、異なる施設間でスムーズに共有したいという狙いがあります。今後は国の主導により、電子カルテの普及率は急速に上昇すると予想されます。

2. 電子カルテとは?レセコンの違いは?

ご承知のように、そもそも電子カルテは医療情報を電子データとして管理・保存し、一方のレセコン(レセプトコンピュータ)は診療報酬の請求業務を行うものです。代表的なレセコンとしては現在、日本医師会のORCAプロジェクトで開発されている「日医標準レセプトソフト」(通称:日レセ)があります。日レセは幅広いメーカーの電子カルテと連携できるのが特徴です。

 電子カルテとレセコン「一体型」 

電子カルテとレセコンの機能が一体となったシステムを導入すると、画面を切り替えず、シームレスで受付・診察・会計までの処理が可能です。電子カルテ上でレセコン側の機能を使い、診療費の簡易的な計算もできます。レセプト作成時にカルテの情報入力が不要で、データの変更や追加が必要な際も一度の入力で済むのが大きなメリットです。

電子カルテとレセコン「分離型」 

電子カルテとレセコンが分かれているものは分離型、または連動型ともいいます。分離型の場合、各メーカーが作る電子カルテと、「日レセ(日医標準レセプトソフト)」(ORCA)を連動させているケースが多く見られます。

分離型は、電子カルテとレセコンが別れているため、どちらかのシステムに不具合が起こった場合でも業務が完全に止まることはありません。また、「日レセ」は多くの医療機関で使われているため、操作に慣れた受付事務スタッフを採用しやすく、教育にコストがかからないのもメリットと言えます。注意点として、電子カルテによって接続できるレセコンが異なる点があげられます。先にレセコンを決めると電子カルテの選択肢が少なくなるため、まず電子カルテを決めた方がよいでしょう。

大手メーカー製の電子カルテであれば、レセコンもそのメーカー製のものが一緒になったシステムになります。そうでない電子カルテの場合、「日レセ(日医標準レセプトソフト)」(ORCA)に接続するシステムがほとんどです。

3. オンプレミス型とクラウド型の比較 

電子カルテシステムは大きく分けてオンプレミス型とクラウド型に大別できます。それぞれの特徴をおさえておきましょう。

オンプレミス型電子カルテの特徴 

自前のサーバーやネットワークを用意し、電子カルテのデータをすべて院内に蓄積するのがオンプレミス型の特徴です。機器にかかる初期費用は比較的高額で、システム更新などへの対応も独自に行う必要がありますが、現場の希望にあわせた細かなカスタマイズが可能です。また、情報漏えいやウイルスの危険にさらされるリスクも比較的少ないと言えるでしょう。クラウド型もセキュリティ対策には力を入れているものの、自院の中だけでデータをやりとりするオンプレミス型は、電子カルテの情報が外部にさらされません。

また、一般的にデータを読み込む際にかかる時間が、クラウド型よりも短くて済みます。クラウド型ではサーバーから情報をダウンロードする必要があるため、表示までに一定の時間が必要なためです。

クラウド型電子カルテの特徴 

 一方、クラウド型電子カルテは、院外のサーバーにデータをアップロードするため、独自のサーバーやネットワークは不要で、システム更新も自動で行われます。クラウド型はインターネット環境があれば、ほとんどの端末からブラウザを通じてアクセスできます。オンプレミス型では院内でしか電子カルテを閲覧できないため、訪問診療や院外から急いで内容を確認したいときはクラウド型が便利です。

情報セキュリティの面ではオンプレミス型が優れているとされますが、火災や地震などでクリニックが被害を受けるとデータを消失してしまう可能性があるため、定期的なバックアップが欠かせません。一方で、外部サーバーを利用するクラウド型は、リスクの分散という点では強いといえるでしょう。

一般的に初期費用は安く済みますが、毎月の利用料が数万円かかります。インターネットに接続できる環境で、安定的にデータ閲覧するためには、インターネット回線を強固なものに変更するため、さらに工事費が必要な場合もあります。

電子カルテは長期にわたって、診療を支えるものです。したがって初期費用だけで比較せず、自身のニーズにマッチしたものを選ぶことが大切です。

4. 電子カルテに不可欠な「電子保存の三原則」

先にも解説しましたが、1999年に紙カルテを電子保存するためのガイドラインが制定されたことにより、各医療機関で電子カルテを運用できるようになりました。

厚生労働省はガイドラインの中で、電子保存の際に「真正性」「見読性」「保存性」の3つを遵守するように求めています。電子カルテのメーカーの間では「電子保存の三原則」と言われているものです。

 

<真正性>
データの偽造、改ざんや消去を防止し、誰が書いたかをわかるようにしなければなりません。

<見読性>
保存された情報を肉眼で読めるようにし、診療や監査など必要なときに出力できるようにしなければなりません。

<保存性>
法令が定める期間中は復元が可能な状態で保存しなければなりません。設備の老朽化やヒューマンエラー、コンピュータウイルスの影響など、データ消失への対策を施すようセキュリティ対策なども求められます。

現在広く流通している電子カルテは、この電子保存の三原則を満たしていると考えて差し支えありません。

電子カルテに関するよくある質問 

Q1. 電子カルテは義務化されますか?

A1.現段階では電子カルテの導入は義務ではありませんが、「 を目指すとされ、オンライン資格確認の義務化の流れもあり、今後さらに導入スピードは加速すると予想されます。

Q2. 電子カルテの普及が進まない理由は?

A2.ご高齢のドクターなどには「紙カルテのほうが便利」という考えもあるようです。また導入コストやコンピュータへの抵抗感もネックになっていると考えられます。ただし新規開業の場合は、ほぼ電子カルテが導入されていることから、普及率は上がっています。    

Q3. 開業に向けて電子カルテはいつ選べばよいでしょうか?

A3.電子カルテはクリニックの運営の「かなめ」であるため、早い段階から準備するに越したことはありません。当サイト『目利き医ノ助』では選び方などのアドバイスなどを無料で行いますので、ぜひお問い合わせください。