2024.04.24
全国医療情報プラットフォームを利用するクリニックのメリットと注意点
他医療機関や介護施設での患者さんの医療情報が、どこでも参照できるようになる全国医療情報プラットフォーム。概要は知りつつも「具体的にどんなメリットがあるの?」「全国医療情報プラットフォームを利用するために、必要な準備は?」とお悩みのクリニックも多いのではないでしょうか。本記事では、全国医療情報プラットフォームの詳細と、利用した際のメリットや注意点について詳しく解説いたします。全国医療情報プラットフォームの情報を探している方は、ぜひ最後までご覧ください。
なお、医療DX令和ビジョン2030については下記記事にて詳細に解説しておりますので、こちらもご参考にしてください。
医療DX令和ビジョン2030とは?掲げられた背景や目的について解説します
全国医療情報プラットフォームとは?
全国医療情報プラットフォームとは、患者さんの保健・医療・介護情報を医療機関や自治体、介護事業者などで共有できるシステムです。より質の高い医療を効率的に提供したり、医療情報を二次利用したりするための環境整備を目的として、施策が進められています。
患者さんの医療情報は、マイナンバーカードによるオンライン資格確認のシステムネットワークを拡充し、クラウド間連携をすることで可能に。将来的に全国医療情報プラットフォームで共有できる情報は、以下のような例があります。
・処方・調剤情報
・健診・予防接種情報
・介護情報
・医療費情報
上記のような患者さんの医療情報を共有できることで、医療機関はどのような恩恵を受けられるのか、次章で見ていきましょう。
全国医療情報プラットフォームによる医療機関のメリット
全国医療情報プラットフォームが実現すると、医療機関には次のようなメリットがあります。
2.医療従事者の負担が減る
3.より良い治療や診断の発展につながる
それぞれの詳細や、具体的な事例を詳しく解説します。
メリット1.患者さんにより適切な医療を提供できる
全国医療情報プラットフォームが実現すると、患者さんにより適切な医療を提供できるようになります。オンライン資格確認システムを用いて、患者さんの同意のもと、他医療機関の患者情報や診療情報が参照できるようになるためです。
具体的には、次のような他医療機関の保険・医療情報が参照できるようになります。
・傷病名
・感染症
・アレルギー
・処方情報・薬剤禁忌
・検査情報
・健康診断結果
現在は上記のような他医療機関での情報を入手するとなると、診療情報提供書を依頼しなければなりません。これまでも救急外来などでは、患者さんの医療情報取得の難しさが問題となっていました。
しかし、全国医療情報プラットフォームが実現すれば、全国どこの医療機関でも、患者さんの医療情報にアクセスできます。ひいては、救急・医療・介護現場で切れ目ない医療体制の構築につながり、適切な医療を迅速に提供することが可能になるのです。
メリット2.医療従事者の負担が軽減する
全国医療情報プラットフォームが実現すると、医療従事者の負担が軽減します。これまで手作業で行っていた事務作業や登録業務などが、デジタル化されるためです。具体的に負担軽減できる業務例は以下のとおりです。
・医療文書交換
・公費受給者証の登録・確認業務
・予防接種事務
(1)医療文書交換の効率化
全国医療情報プラットフォームを用いると、医療文書を電子的にやり取りできるため、紙媒体で書類を用意する必要がなくなります。これまでは、他の医療機関に診療情報提供書を提供するとなると、以下のような作業が必要でした。
1.医師が診療情報提供書を作成する
2.添付資料の準備(検査データ・画像診断データ・病理等の検体)
3.印刷した診療情報提供書・添付資料を包装する
診療の合間にこれらの作業を行わなければならず、時には急を要するものもあるため、医療従事者の負担は大きいものでした。また、電子カルテを導入していない医療機関は手書きで診療情報提供書を作成しますが、その字が読めないといったアクシデントも往々にしてあります。
全国医療情報プラットフォームによって、これらの手間や問題が解決できるのです。
(2)公費受給者証のデジタル化
全国医療情報プラットフォームでは、保険証と同様に公費受給者証もマイナンバーカードによるオンライン資格確認が可能になります。公費のほとんどに有効期限が定められており、患者さんは期限が切れる前に更新手続きを行います。しかし、新たに受け取った受給者証を忘れてしまうケースも多いのが現状です。
結果として、一時的に健康保険単独で会計を作成し、あとから再計算・再精算が必要となるため、大きな負担となっていました。また、医事システムに公費受給者番号等を登録する必要がありますが、オンライン資格確認が可能になれば誤登録のリスクも軽減します。
受給者証忘れによるレセプト提出保留や、誤登録によるレセプト返戻も削減され、クリニックの経営にも良い影響があるでしょう。
(3)予防接種事務のデジタル化
全国医療情報プラットフォームが普及すると、予防接種事務もデジタル化されます。予防接種は患者さんが手書きで記入した予診票を医療機関で預かり、実施するのが通常です。しかし、患者さんが記入する予診票は漏れが多く、都度スタッフによる確認が欠かせません。
自治体によって対応は異なるものの、予診票の記載に漏れや誤りがあると請求が認められないケースも。また、通常は1ヵ月分まとめて請求書を作成し、予診票と一緒に郵送しますが、その負担も少なくありません。
出典:「予防接種事務のデジタル化について」厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/content/12600000/001203370.pdf)
デジタル化によって患者さんはスマホ等で予診票を記入し、電子的に費用請求ができると確認や送付の手間がなくなるため、医療従事者の負担が軽減できるでしょう。
メリット3.より良い治療や診断の発展につながる
全国医療情報プラットフォームの実現によって、より良い治療や診断の発展が期待されます。全国医療情報プラットフォームの情報を公衆衛生や医学・産業の振興に二次利用することで、医薬品などの研究開発が促進され、より良い治療や適切な診断が可能になるためです。
加えて、万が一新型コロナウイルスのような新たな感染症が流行したときに備えて、膨大な医療情報を分析できます。
有効な治療法の開発や創薬、医療機器開発などに医療情報が活用できれば、医療機関だけでなく患者さんも恩恵が受けられるのです。
全国医療情報プラットフォームの注意点
患者さんの正確な医療情報がいつでも入手でき、医療従事者の負担も軽減できる全国医療情報プラットフォームですが、以下の注意点も存在します。
- 全国医療情報プラットフォームの利用には電子カルテが必要
- クリニック間で格差が発生する可能性がある
どのようなことに気を付けて、何を意識すべきか、順番に見ていきましょう。
注意点1.利用するには電子カルテが必要
全国医療情報プラットフォームを利用するためには、電子カルテの導入が欠かせません。全国医療情報プラットフォームは、標準規格で情報を授受できる電子カルテの存在が前提のシステムだからです。
大きな病院では導入が進んでいるものの、令和2年時点で一般診療所に電子カルテが導入されている割合は約50%です(※)。政府は2030年までにほぼすべての医療機関で電子カルテの導入を目指しており、クリニックは以下の対応が必要となります。
- 電子カルテ導入済のクリニック:電子カルテ標準化のためのシステム構築・改修
- 電子カルテ未導入のクリニック:標準化電子カルテの導入
とはいえ、患者数が少なかったり、スタッフが高齢だったりといった理由から導入が難しいクリニックもあるでしょう。加えて、電子カルテの導入には大きな費用がかかるのも懸念点のひとつです。
目利き医ノ助では、全国医療情報プラットフォームの利用を見据えた、電子カルテ導入のご相談を承っております。クリニックの状況やお困りごとに合わせて最適なご提案をさせていただきますので、お気軽にご相談ください。
なお、「電子カルテの標準化」については以下のコラムにて詳しく解説しておりますので、こちらもご参考にしてください。
Comming soon
注意点2.クリニック間で格差が発生する可能性がある
全国医療情報プラットフォームの利用が始まると、クリニック間で格差が発生する可能性があります。クリニックのITシステム活用可否や度合いによって、提供できる医療やサービスに差が生じるためです。
これらを見据え、取り残されないようにシステムの整備やスタッフの教育をし、ITスキルを習得していく必要があります。とはいえ、まとめてシステムを導入したり、導入したシステムの使い方を覚えたりするのは、金銭的にもスタッフの体力的にも簡単ではありません。
全国医療情報プラットフォームが始まるタイミングや、直前で慌てることがないように、計画的に準備を進めると良いでしょう。
全国医療情報プラットフォームの工程
厚生労働省によると、全国医療情報プラットフォームは下図の工程にて進めるとしています。
出典:「データヘルス改革・医療DXの進捗状況について」厚生労働省(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/data_rikatsuyou/dai11/siryou2.pdf)
2024年4月現在はマイナンバーカードによるオンライン資格確認の運用が開始され、2025年秋に現行の保険証は廃止される予定です。
今後実施される予定を把握し、少しずつ必要な準備を始めましょう。
全国医療情報プラットフォームの準備はお早めに
全国医療情報プラットフォームの利用が開始されると、医療機関は負担が減り、患者さんもより良い医療が受けられます。しかし、利用するためには、標準化電子カルテの導入をはじめとした準備が必要です。
ITシステムの導入と全国医療情報プラットフォームの運用開始を同時に行うとなると、費用的にもスタッフの体力的にもかなりの負担が予想されます。全国医療情報プラットフォームの運用開始に備えて、早めに準備を進めると良いでしょう。
なお、目利き医ノ助では、全国医療情報プラットフォームの運用を見据えたITシステム導入の相談を承っています。クリニックのご希望や状況に応じて、柔軟なご提案をさせていただきますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。