診療報酬改定DXは何が行われる施策?改定の現状やクリニックのメリットを解説

診療報酬改定を改革する「診療報酬改定DX」。耳にしたことはあるものの「具体的に何が行われるのか詳細は分からない」という医師やクリニックも多いのではないでしょうか。本記事では、診療報酬改定DXの施策内容や診療報酬改定の現状、クリニックのメリットと注意点について詳しく解説します。

「診療報酬改定DX」って何?

本章では、診療報酬改定DXの詳細や、診療報酬改定が抱えている問題について見ていきましょう。

診療報酬改定DXとは

診療報酬改定DXは「医療DX令和ビジョン2030」の施策のひとつです。診療報酬や改定に関する作業の効率化を目的として行われます。加えて、SE人材の有効活用とコストの削減も目標です。診療報酬改定は2年に1度行われますが、そのたびに新規項目の追加やコードの修正といった作業が発生するため、医療機関やベンダの負担は大きいものでした。そこで「共通算定モジュール」の開発をはじめとした改革を行うことで、負担の軽減を実現しようとしているのです。

自民党の提言によると(※1)、共通算定モジュールは厚生労働省や審査支払機関、ベンダに加えてデジタル庁のサポートを受けて作成するとされています。共通算定モジュールの詳細については、後段にて解説します。

※1自由民主党政務調査会|「医療DX令和ビジョン2030」の提言

診療報酬改定の現状

これまでの診療報酬改定では、1月下旬に個別項目、3月上旬に告示等が発表される流れでした。ベンダは1月下旬の時点である程度の方向性については分かるものの、最終的な点数の確定は3月上旬まで待つ必要があります。

出典:「診療報酬改定DX対応方針(案)」厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001091070.pdf

とはいえ、診療報酬改定の施行日である4月1日に来院する患者さんの会計から、改定後の点数や解釈で計算し始めなければなりません。したがって、3月上旬の告示から施行日までの短期間でシステムの反映作業を行う必要があり、それが大きな負担となっていました。

また、診療報酬を請求するための点数ロジックは共通ですが、ベンダや医療機関ごとに運用システムは異なります。ベンダや医療機関の仕様に応じて、独自にシステムの開発が必要な点も、改定作業に多大な労力を要する原因のひとつです。

診療報酬改定DXの主な施策内容

診療報酬改定DXでは、主に以下の施策が行われるとされています。

・共通算定モジュールの開発
・共通算定マスタ・コードの整備と電子点数表の改善
・改定施行時期の検討

具体的にどのような内容なのか、詳しく見ていきましょう。

施策1. 共通算定モジュールの開発

診療報酬改定DXの大きな施策として「共通算定モジュールの開発」があります。共通算定モジュールとは、各ベンダが共通のものとして活用可能な、診療報酬の算定や患者さんの窓口負担金計算を行うための電子プログラムです。これまでは診療報酬改定の告示がなされると、下図のような流れでベンダがプログラムを開発し、医療機関のシステム改修を行っていました。

しかし、共通算定モジュールが実装されると、政府が開発した改定のプログラムをクラウド上で医療機関に直接提供可能になります。ベンダは独自にプログラムを開発する必要がなくなり、医療機関のサポートをする立場となるため、作業負担やコストを削減できるとされているのです。

施策2. 共通算定マスタ・コードの整備と電子点数表の改善

診療報酬改定DXの施策には「共通算定マスタ・コードの整備と電子点数表の改善」があります。診療報酬改定DXは、最終的に全国医療情報プラットフォームとの連携を掲げており、全国の医療機関で患者さんの医療情報を共有するためには、コードの標準化が必要なためです。

共通算定マスタおよびコードとは、以下を指します。

算定コードは現状、医療機関ごとに独自のものを使用しているため、標準コードを使用するためには、現在使用している算定コードと紐づける作業が必要となるでしょう。

また、本施策では「公費・地単公費の医療費助成情報のマスタ作成」も合わせて行われます。これにより、地方自治体が独自に行っていた、公費負担医療などの受給資格や負担割合等の情報が管理可能になるため、公費などを適用したあとの自己負担金を正確に計算できるように。ひいては、償還払いではなく公費負担医療の現物給付化が可能になるのです。

なお、全国医療情報プラットフォームの詳細については、以下の記事にて詳しく解説していますのでこちらをご覧ください。

全国医療情報プラットフォームを利用するクリニックのメリットと注意点

施策3. 改定施行時期の検討

診療情報改定DXでは、改定の施行時期を見直しています。その理由は、診療報酬改定にまつわる作業の負荷を平準化するためです。2022年の改定までは4月1日に診療報酬改定を試行していましたが、2024年の改定より6月1日に施行となっています。

厚生労働省による、診療報酬改定の時期を2ヵ月後ろ倒しした場合のスケジュールは以下のとおりです。

出典:「医療DXについて(その2)」厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001129862.pdf

診療報酬改定にまつわる改修やテスト作業の期間がのびるため、ベンダの負担は減少するでしょう。加えて、医療機関のレセプト作成担当者の負担も軽減できる可能性があります。これまで改定後の初回請求は5月10日までに行わなければならなず、レセプトの作成期間がゴールデンウイークに重なっていました。そのため、通常よりも作成期間が短い中で改定の対応が求められていました。

施行時期を後ろ倒しすることで、ベンダも医療機関も負荷を平準化できるのです。

診療報酬改定DXによるクリニックのメリットと注意点

診療報酬改定DXが行われることでクリニックには以下のメリットがあります。

・診療報酬改定に関連する負荷の減少
・医療機関をまたいだ診療費の計算
・医療機関が負担するベンダへのコストが下がる可能性

厚生労働省は「疑義解釈や変更通知などは共通モジュールに即時反映する」としているため、これまでより効率的な対応が可能になると思われます。

また、共通算定マスタ・コードが整備されることで、医療機関をまたいだ診療費の計算が可能に。これまでは医療機関ごとに計算していた高額療養費を他院の診療費と合算できるほか、特定疾患や自立支援といった公費での管理表も撤廃できます。患者さんは償還払いの手続きが不要となり、医療機関は他院分の診療費の登録や確認が不要になるため、双方の労力が下がるでしょう。

加えて、医療機関が負担するベンダへのメンテナンス料や、新規導入時のコストが下がる可能性もあります。これまで各ベンダが行っていた改定時のプログラム開発を政府が引き受けるため、レセコン用のプログラム開発が容易になるためです。

一方で、診療報酬改定DXには注意点も。共通算定モジュールを利用するためには、オンライン接続が可能なレセコンが必要です。診療報酬改定DXをきっかけに、対応できないメーカーが淘汰されるおそれがあり、現在使用しているレセコンのメーカーによっては、乗り換えが必要となる可能性も。

厚生労働省は「中小病院・診療所等においても負担が極小化できるよう、標準型レセコンの提供も検討する」としていますが、今後は国策を見据えたシステム選定が必要です。

診療報酬改定DXの取組スケジュール

共通算定モジュールは、病院向けのものから開発を始め、中小規模の病院を対象に提供を開始して、徐々に拡大するとされています。具体的には、令和6年ごろより共通算定モジュールのモデル事業の準備をし、令和7年ごろに試行運用をする予定です。

出典:「第4回医療DX令和ビジョン2030厚生労働省推進チーム資料について 診療報酬改定DX報告資料」厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001140175.pdf

また、厚生労働省は標準型電子カルテと一体型の標準レセコンをクラウド上に構築して、診療所向けに利用可能な環境を提供するとの見解を示しています。

国策の動向を見据えたシステム選定を

診療報酬改定DXによって、医療機関やベンダは診療報酬改定に関連する負担が大きく軽減されると予想されています。加えて、医療機関をまたいだ診療費の計算や、ベンダへ支払うコスト減少の可能性もメリットのひとつです。しかし、これらのメリットを教授するための共通算定モジュールを利用するためには、オンラインに接続できるレセコンの導入が必須です。現在使用しているレセコンのメーカーによっては乗り換えが必要となる可能性もあります。

今後は国策を見据え、より正確なシステム選定が必要となるでしょう。目利き医ノ助では、国策やクリニックの特徴に合った、最適なシステム選定をするためのお手伝いが可能です。相談料は無料ですので、システム選定にお悩みのクリニックは、ぜひお気軽にご相談ください。

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