2024.05.15
電子カルテ情報の標準化って何?期待される効果と準備のポイントを解説
医療DX令和ビジョン2030の施策のひとつとして、電子カルテ情報や交換方式が標準化されることが発表されています。「電子カルテ情報の標準化って何が行われるの?」「具体的にクリニックでやらなければならないことは?」とお悩みの医師も多いのではないでしょうか。本記事では電子カルテ情報標準化の概要や期待される効果、クリニックが抱きがちな疑問について詳しく解説いたします。
「電子カルテ情報の標準化」って何?
電子カルテ情報の標準化について、よく分からないという方も多いでしょう。本章では電子カルテ情報標準化の概要や、標準化するための規格について解説します。
電子カルテ情報の標準化とは
電子カルテ情報の標準化とは、現在は医療機関ごとに異なっている電子カルテ情報の規格をそろえるための施策です。電子カルテ情報が標準化された「標準型電子カルテシステム」を使用すると、他院の患者情報等が参照できる全国医療情報プラットフォームを利用できるようになったり、民間事業者が提供するシステム群との連携が可能になったりします。
これらが活用できるようになると、医療機関同士で医療情報の共有や連携が効率的にできるように。具体的には、以下の電子カルテ情報から標準化を始め、段階的に拡張される予定です。
・アレルギー情報
・感染症情報
・薬剤禁忌情報
・救急時に必要な検査情報
・生活習慣病関連の検査情報
・処方情報
これらの情報が全国の医療機関で参照可能となるため、これまで救急医療の現場をはじめとして問題になっていた、患者の医療情報の入手が容易になるのです。
なお、電子カルテ情報が標準化されると利用できるようになる「全国医療情報プラットフォーム」については、以下の記事にて詳しく解説していますので、こちらもぜひご覧ください。
全国医療情報プラットフォームを利用するクリニックのメリットと注意点
電子カルテ情報を標準化するための規格「HL7 FHIR 」
電子カルテ情報を標準化するための規格は、「HL7 FHIR」が用いられるとされています。HL7 FHIRとは、医療情報交換を実装しやすい新しい標準規格であり、海外で注目されています。医療情報システム間で情報交換をするための国際的標準規約の作成や、普及推進を目的とした非営利団体である「HL7 International」によって作成されました。
HL7 FHIRは、次の医療関連情報の交換ができるように設計されています。
・診療記録データ
・医療関連の管理業務データ
・公衆衛生データ
・研究データ
HL7 FHIRは、これらの情報を入院や外来医療、急性期医療や回復医療といったような多岐にわたる状況で使用できるため、日本で電子カルテ情報を標準化するための規格として採用されました。
電子カルテ情報を標準化することで期待される効果
電子カルテ情報を標準化し、全国医療情報プラットフォームが活用可能になることで、医療機関はもちろん、保険者や患者さんにも良い影響が期待されています。本章では、それぞれどのような効果が得られるのか、具体的に見ていきましょう。
医療機関が得られる効果
電子カルテ情報を標準化することで、医療機関が期待できる効果は次のとおりです。
・患者への問診が正確かつ効率的にできる
・診療情報提供書などの文書を簡単に作成できる
・システム関係経費を節減できる可能性がある
新規や久しぶりの患者さんには問診票を記入してもらうクリニックが多いでしょう。医療機関によっては、看護師が詳細に状態を聞き取るなど、負担が大きいものでした。しかし、電子カルテ情報が標準化され、全国医療情報プラットフォームを利用できるようになれば、他医療機関での患者さんの処方薬や検査情報が参照できるため、短時間で正確な情報を入手できます。
加えて、診療情報提供書などの文書も簡単に作成できれば、クリニックから大きな病院へ紹介するときも短時間かつ小さな労力で紹介可能です。また、標準型電子カルテの開発を国が進めており、安価な電子カルテが登場する可能性もあります。
電子カルテ情報が標準化されることで、医療機関はスタッフの負担が軽減でき、ひいては人件費削減も含めて、経費を節減できる可能性があるのです。
保険者が得られる効果
電子カルテ情報が標準化されることで、保険者は次のような効果が期待できます。
・重複検査の防止
・特定健診や診療情報を活用した保健指導の実現
患者さんが他医療機関の検査結果や画像データを持参していれば重複した項目を除いて検査が可能です。しかし、手元に情報がなく治療に必要であれば、再度検査せざるをえません。他医療機関の情報が参照できるようになれば、重複検査を防げるため、医療費を適正化できます。
また、社員の健康増進を目的として企業が行っている保健指導で、特定健診や医療機関の診療情報を活用できるようになれば、より効果的な指導が実現できるでしょう。
国民が得られる効果
電子カルテ情報が標準化されることで、国民は以下のような効果が期待できます。
・患者さん自身の健康増進等が期待できる
・検査結果等を入手するための受診を「通院」以外の選択ができるようになる
患者さんはスマートフォンなどを利用して、マイナポータル等で自身のアレルギー情報や検査情報をはじめとした医療情報が閲覧できるようになります。これにより、患者自身の健康に対する意識が高まるため、健康寿命の延伸をはじめとした健康増進等が期待されているのです。
また、これまでは当日に結果が出ない検査については、後日結果説明のための受診が必要でした。しかし、検査結果が患者さんのスマートフォンなどで見られるようになれば、通院以外にもオンライン診療等の選択が可能になります。
電子カルテ情報標準化の注意点と準備のポイント
現在クリニックで使用しているメーカーによっては、電子カルテの乗り換えが必要となる場合があるため、注意が必要です。電子カルテ情報の標準化をきっかけに、対応できないメーカーが淘汰されていくおそれがあります。電子カルテの標準化によってメーカーが統一されるわけではありませんが、対応できないメーカが統廃合するといった可能性はあるのです。
電子カルテの導入有無によって異なりますが、電子カルテ情報の標準化でクリニックがやらなければならない対応は、以下のとおりです。
電子カルテ導入済の場合:すでに導入している電子カルテの標準化を進める
電子カルテ未導入の場合:新たに電子カルテを導入する
現時点で電子カルテがないクリニックが標準化に対応するためには、新たに電子カルテの導入が必要です。とはいえ、患者数が少なかったり、後継者がいなかったりといった電子カルテを導入するハードルが高いクリニックもあるでしょう。そのような場合は「国から標準型電子カルテ」を提供されるのを待つ」という選択肢もあります。
新たに電子カルテを導入する際は、国策や行政施策への対応力を備えたメーカーを考慮したうえで選定が必要であり、特に新規開業のクリニックでは重視すべきポイントです。
目利き医ノ助では、国策等を見据えたシステム選定のご相談を承っておりますので、クリニックに最適なシステム選びにお悩みの場合は、ぜひ一度ご相談ください。
電子カルテ情報標準化の3つの疑問
ここからは、電子カルテ情報の標準化で抱きやすい疑問について回答します。
Q1.電子カルテが統一されるの?
電子カルテ情報の標準化は、データ形式が標準化されるものであり、メーカーやシステムが統一されるわけではありません。
既存の電子カルテでも標準的なデータ交換規格を取り入れられるようになる予定ですが、お使いの電子カルテが標準化未対応のメーカーの場合は、電子カルテの入れ替えを検討しなければならない可能性もあります。
Q2.電子カルテ情報等の標準化が行われるスケジュールは?
2023年度に必要な要件定義などに関する調査研究を行い、2024年度中に開発に着手する予定です。
出典:「電子カルテ情報等の標準化について」厚生労働省(https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/2201_03medical/220224/medical03_0103.pdf)
Q3.電子カルテを導入するにあたって補助金の利用は可能?
厚生労働省は、「電子カルテ未導入の医療機関を含め、電子カルテ情報の共有のために必要な支援策を検討する」としています(※)。
※参考:医療DXの推進、マイナ保険証の利用及び電子処方箋の導入に関する状況について|厚生労働省
今後は電子カルテ情報標準化を見据えたシステム選定を
電子カルテ情報の標準化は、全国医療情報プラットフォームを利用するために必須です。他医療機関の医療情報が参照できるようになると、クリニックでは患者さんにより質の高い医療が提供できたり、スタッフの負担が軽減できたりと多岐にわたるメリットがあります。
一方で、電子カルテ情報の標準化をきっかけに、対応できない電子カルテメーカーが淘汰される可能性もあり、お使いの電子カルテによっては乗り換えを要するケースも。
「標準化を考慮して電子カルテやシステム選定をしたい」と悩まれているのであれば、プロに相談するのも一つの方法です。目利き医ノ助では電子カルテ情報の標準化だけでなく、クリニックの希望や状況に応じて最適なシステム選定のお手伝いをさせていただきます。ご相談は無料ですので、ぜひお気軽にお問い合わせください。